歯のおはなし

原因不明の歯痛(その1)

歯およびその周辺の痛みの原因は、視診を含めた口腔内診査およびX線等で診断できることがほとんどですが、
時として問診内容・臨床所見・診査・画像結果を総合しても診断名に至らない場合があります。
セメント質剥離に伴う疼痛も確定診断が困難な病名の一つです。
歯根の表面を構成するセメント質が一部、微細に亀裂・剥離し、歯根表面と歯槽骨が解離して部分的に歯の脱臼が生じた状態です。通常は直ちに跡形もなく修復され、臨床的な問題を生じることなく終わるのですが、この微細な亀裂・剥離した間隙部分に口腔内の細菌が侵入し感染が生じてしまうと、炎症所見である歯肉の発赤・腫脹と疼痛を引き起こしてきます。セメント質の亀裂・剥離の規模が大きくなると、剥離した周辺の歯槽骨の破壊だけでなくⅩ線で剥離セメント質片の存在が確認できるようになります。臨床症状も歯肉の発赤・腫脹・疼痛だけでなく、歯の冷水疼痛(生活歯)・咬合痛(亀裂・剥離が根尖付近に及ぶ場合)・自発痛、歯の動揺ときには顔面腫脹をも引き起こしてきます。微細なセメント質亀裂・剥離は、多くの場合、現行の診査方法では検知レベル以下のことが多く、明確に病変部位を特定することができずに、原因不明の歯痛となってきます。(その2に続く)。

術前(2019.05.27)
術後(2021.08.27)

症例1 70歳 女性(上顎小大臼歯は義歯を使用)
1)術前:左側側切歯の唇側根尖部歯肉の腫脹・瘻孔/排膿で来院
2)診査の結果、左側側切歯は生活歯と判明
3)側切歯の根尖病変は左側中切歯口蓋側近心ポケットと交通あり
  ⇒診断名:左側中切歯口蓋根近心のセメント質剥離・感染
4)術後;左側側切歯の根尖病変および口蓋側ポケットは消失した

問題点;左側中切歯への咬合負荷が継続する限り、セメント質のさらなる剥離発生が予想され、最終的には左側中切歯の喪失が予想される。

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