歯のおはなし

総入れ歯の無限ループ(修理⇔新規作製)について(2/5)

下表は入れ歯の無限ループのカレンダーです。2名ともに身内の患者で、初診時はともに59歳でした。初診から7-10年間、ほぼ入れ歯に関する治療を行ってきました。

患者1は、最初は、部分入れ歯の調整で来院され、留め金の掛かっていた動揺歯の抜歯、それ以降、まさに延々と義歯調整・動揺歯の抜歯・義歯修理・新義歯作製・義歯裏層を繰り返しました。強い噛み合わせで歯が動揺、順次失われて、入れ歯による治療はさらに困難な状態になっていきました。

患者2は金属床の金属破損で来院、部分入れ歯から総入れ歯へ移行した症例です。この症例も先の症例と同様で、動揺する歯の抜歯を繰り返し、総入れ歯に進展しました。しかし装着直後からすぐに正中から亀裂線が入り、修理、調整、新規作製を繰り返す、無限ループの患者さんになりました。

両名ともに噛む力が強く、本来、入れ歯では不適当な食材をも遠慮なく噛む(噛みたい)ので、残存歯の動揺とともに入れ歯に関するトラブルが続きました。

7-10年間の治療において、いずれの症例も時間経過とともに入れ歯を使用しての治療の見通し(見込み)はなくなり、入れ歯を使用しての治療は患者・術者双方にとって時間の消耗を強いるものでした。
最終的な着地点は、
①患者さんが入れ歯の限界点を理解し諦めて治療が終了するか?
②さらに延々と終わりのない治療をこれからも継続するか?
③患者さんがどこかの入れ歯の名医に転医するか?でした。
当然、患者さんは①は理解しており、また、立場上③も選択しにくいのです。そして②の延々治療は、患者さんの加齢に伴い今よりさらに入れ歯作製の条件が悪くなることが予想されます。
ともに身内の方なので、当方も以下のように遠慮なく説明します。
「入れ歯を簡単に割ってしまうような強い噛む力を、入れ歯で受け止めて、残った数少ない歯で支えて、歯茎で支えるとかいう希望は捨てたほうがよい」
「入れ歯の下の歯茎は、歯の1/10以下しか噛む力を支えられないので、歯があった時と同じように噛むと、入れ歯が壊れるか、歯茎が痛くなるかのどちらかです。痛くなく制限して噛むと、しかし以前のような食事はできないのです」
「入れ歯には入れ歯に合う食材があり、この限界を超えると歯の動揺と入れ歯の疼痛・破損を招きます」
「入れ歯では、患者の栄養状態が改善していないというデータの方が多いです」
「施設に入所した半分の人は入れ歯を使用しなくなるというデータがあります」
「年齢と共にさらに入れ歯の使用と作製は困難になります」
っとまあ、延々と入れ歯の問題点・限界点を繰り返し述べるわけです。ところが、身内ですから
「そこのところを、そこをなんとかならないでしょうか?」ということで、かかる延々治療になったのです。

最終的は、入れ歯による治療は困難と判断し中止となりました。。。

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